笑顔の薬 -08 放課後-
バスケ部がバスケ同好会になった。
部員不足は仕方ない。仕方がないんだけど。
それでも、あたしの代でそんなことになってしまったのが悔しくて悔しくて溜まらなかった。
今日は部活の日だって言うのに。旧体育館に集まったのはたったの4人。しかもそれでフルメンバー。
どうして、こうなっちゃったんだろう。
頭を抱えるあたしは気にも留めずに。
「アズ先輩、何もやらないならオレ帰るかんね」
諸悪の権化その1があくびをしながらどうでもよさそうに言った。
「梓、ワタシも帰っていいかしら。今日、お料理教室の日なのよね」
諸悪の権化その2がファンデーションをはたきながら言う。
「あんたたち、一体、誰のせいでこんなことになったと思ってんの?」
「あらあら、怒ると肌によくないわよ、梓。ほら、そんなだからニキビが治らないのよ?」
「アズ先輩、欲求不満? なんならオレが抱いてやろうか?」
……反省の色ナシ。
おまけに、自分たちがこの惨状を作った張本人だなんて思ってもいない様子。
確かに。魚住兄弟は顔がよかった。お陰で、4月の新歓では、沢山の新入部員――女子ばっかりだったけれど――が獲得できたんだけど……問題はそれからだった。
魚住兄弟狙いの女子ばかりの入部に、男子部員がこぞって辞めて行ったそのとき気付くべきだった。
兄の魚住静機はオネエ言葉。(オカマさんではないらしい。本人談だから怪しいものだけれど)。
弟の魚住静馬はとっかえひっかえの女好き。
はじめに、静機に幻滅した女の子たちが辞めていった。
遅れて、静馬に遊ばれてポイ捨てされた女の子が辞めていった。
結局残ったのは諸悪の権化とあたし、それから静馬の親友の大助くんだけ。
「ちょっと静馬も静機も帰るとか言わないで、千倉部長の話ちゃんと聞きなよ」
本当、今頼りになるのは大助くんだけだ。
バスケ部の中で一番身長が低くて(あたしは167cmあるんだけど、少しだけ大助くんの方が小さい)、一番若い1年生の大助くん。
それでもどうしてか、魚住兄弟はそんな彼にめっぽう弱い。
「ヤダ、冗談よ冗談。ワタシが大ちゃんを置いて帰るわけないでしょ」
「了解。で、何、アズ先輩」
本当、不思議だなあ。
大助くんの一言でころりと態度が変わる2人。
それから、さっきまでの苛々がさっぱりと消え去ってるあたし。
「……なんだかどうでもよくなっちゃった」
「何よ、ソレ」
「なんだ、つまんない」
2人のリアクションは相変わらずだったけれど。
ふと、向かいに座った大助くんと目が合った。
仕方ないですよね、とでも言うような表情。
「今日は部活辞めにして、これからケーキバイキングにでも行こうか」
「いいわね、ソレ」
「んー、大助が行くなら行く」
みんなの視線が大助くんに集まる。
「行きますか」
大助くんがそう言うと。みんなの顔に笑顔が浮かんだ。
バスケ同好会にはなったけれど。
大助くんが居る限り、ウチの部活は大丈夫だな。
なんとなく、そう思った。
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